- 会計公準を勉強していたら企業実体の公準っていう内容が出てきたんだけど……
- 企業実体の公準についていろいろ調べてみたけど難しくてよく分からない
- 企業実体の公準についてわかりやすく教えて!
企業実体の公準は会計公準の中の一つなのですが、法律みたいな文章で難しいと感じている方が非常に多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん企業実体の公準についても熟知しています。
この記事では企業実体の公準とは何か、わかりやすく解説します。
この記事を読めば、企業実体の公準についてより深く理解できるので、会計学の問題で企業実体の公準について出題されても自信を持って解答できるようになります。
結論を一言で言うと、企業実体の公準とは「出資者」と「企業」を明確に区分するという公準です。
企業実体の公準:「出資者」と「企業」を明確に区分するという公準
会計(財務会計)では、資金を預かったものの立場で会計を行います。
資金を預かる側が借り入れている場合は「借入金」、資金を預かる側が給料を支払う場合は「給料」というような形です。
「資金を預かったものの立場」には、一般的には経営者があたります。
ここでは「個人事業主」を考えてみましょう。個人事業主の場合、「個人(家計)」と「事業」が一致していることが多く、実態としてはほとんど分かれていないこともあります。
しかし、「個人(家計)」と「事業」が分かれていない場合であっても、あくまでも「経営者の立場」で会計を行います。これが企業実体の公準です。
企業実体の公準は「出資者」と「企業」を明確に区分する公準であるということもできます。
企業実体の公準が反映されている仕訳の例
事務所兼自宅の家賃を支払った
この例題の場合について考えてみましょう。
自宅の家賃は自宅の所有者「個人」が支払います。しかし、30%分は事務所として使っているので「経営者」の立場で企業が支払ったと考えます。このように考える根拠が「企業実体の公準」です。
この例題では「家賃を100,000円支払った」とだけ書かれていますが、家賃を「個人の財布から支払った場合」と「事務所の金庫から支払った場合」では仕訳は異なります。
家賃を「個人の財布」から支払った場合
事業の費用を「個人」に立替払いしてもらったことになるので、立替払い分を「個人」からの出資と考えます。仕訳は次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払家賃 | 30,000 | 資本金 | 30,000 |
家賃を「事務所の金庫」から支払った場合
個人の家賃70,000円分を事務所が立替払いしていることになるので、立替払い分を「個人への出資の払い戻し」と考えます。仕訳は次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
支払家賃 資本金(引出金) | 30,000 70,000 | 現金 | 100,000 |
所得税を支払った
仮に個人事業主が所得税を支払った場合は、たとえ事務所の金庫から支払ったとしても「個人」が支払ったものとして会計処理を行います。
個人事業主の所得税を「事務所の金庫」から支払った場合
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
資本金(引出金) | 100,000 | 現金 | 100,000 |
個人事業主の所得税を「個人の財布」から支払った場合
事業とは無関係だから「仕訳なし」です。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕訳なし |
このように「個人」としての取引と「事業」としての取引を明確に区別して記帳します。
「個人」として借りたお金を「事業」に出資すれば出資(資本金)として記録しますし、「事業」として借りれば借入金として記録します。
企業実体には「法的実体」と「経済的実体」の2つの考え方がある
実体とは「本体」のことで、企業実体とは企業の本体のことです。企業実体の公準とは、企業実体を「経営者個人」から切り離した「企業そのもの」として行うという前提だと言えます。
企業実体については次の2つの考え方があります。
- 法的実体
- 経済的実体
法的実体:法律上で独立している実体
法律上、独立して存在している実体を「法的実体」と言います。法的実体の考え方に立てば、「親会社」と「子会社」は別の企業実体として区別されます。
法的実体を重視して作られた財務諸表が「個別財務諸表」だと言えます。
経済的実体:経済的に独立している実体
法的には独立していても、経済的な実質で見ると1つのグループである場合、そのグループをまとめて1つの企業実体だと考えることができます。このような実体を「経済的実体」と言います。
経済的実体の考え方に立てば、「親会社」と「子会社」はまとめて一つの企業実体です。
経済的実体を重視して作られた財務諸表が「連結財務諸表」だと言えます。
近年、簿記2級の出題範囲に連結会計が含まれるようになってきたことから分かるように、経済的実体を重視した連結会計が社会的にも重視されています。
企業実体の公準が意味する会計の限界
企業実体の公準とは、企業は出資者から独立した実体として考えるという公準です。しかし、出資者と企業が実質的には分離していない個人事業主には無理やり適用しているのが現状です。
先ほどの例で「自宅の30%を事務所として使っている」と仮定しましたが、これはあくまでも仮定で実態を表しているとは言えないのです。
自宅を事務所として使っている場合、同じことが「水道光熱費」「通信費」「消耗品」「備品」など多くのことにあてはまります。
出資者と企業が実態として分離していない場合、企業実体の公準により無理やり区別すると会計情報は非常に不正確になってしまうのです。
これが現在の会計における限界の1つです。
【まとめ】企業実体の公準とは何かわかりやすく解説
企業実体の公準とは「出資者」と「企業」を明確に区分するという公準です。企業実体には「法的実体」と「経済的実体」の2つの考え方がありますが、現在は経済的実体を重視しています。
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