- 引当金を計上するために必要な要件は何だろう……
- 無条件に引当金を計上できるわけではないことは分かるけど、具体的な引当金の計上の要件が分からない
- 引当金を計上する要件について教えて!
引当金を理解することは簿記を理解するために不可欠ですが、問題文の指示のまま何となく引当金の問題を解いている方が非常に多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん引当金を計上する要件についても熟知しています。
この記事では引当金を計上する4つの要件について貸倒引当金を具体例にわかりやすく解説します。
この記事を読めば引当金を計上するための要件が分かります。簿記1級や税理士試験の財務諸表論で引当金に関する理論問題が出題されても自信を持って解答することができるようになります。
結論を言うと、引当金を設定するためには「将来の特定の費用または損失であること」「発生が当期以前の事象に起因すること」「高い発生可能性があること」「金額が合理的に見積り可能であること」の4つの要件を満たすことが必要です。
引当金計上の4つの要件とは
引当金を計上するためには次の4つの条件を全て満たさなければなりません。
- 将来の特定の費用または損失であること
- 発生が当期以前の事象に起因すること
- 高い発生可能性があること
- 金額が合理的に見積り可能であること
将来の特定の費用または損失であること
引当金を計上するためには、「将来に」発生する費用や損失でなければなりません。つまり、当期以前に発生した費用や損失に引当金を設定することはできないということです。
「特定の」というところが難しいです。「特定の」ということは、将来に費用または損失が発生したときに、その原因が特定できなければいけないということです。
事業全体に予想されるような将来の一般的な危険に対して引当金を計上することはできません。
例えば、事業全体に対して極めて重要な人物が当期に怪我や病気をして仕事ができなくなったとします。
このような事態が発生した場合、次期以降さまざまなところで費用や損失が発生することが予想されます。
しかし、その費用や損失が本当にその重要な人物が原因で発生したのか分かりません。よって、「重要人物傷病引当金」のような引当金を計上することはできません。
発生が当期以前の事象に起因すること
引当金を計上するためには、将来の費用や損失を生じさせる原因が、すでに当期以前に発生していなければなりません。そうでなければ、費用収益対応の原則に基づいているとはいえないからです。
そのため、貸倒引当金の場合であれば、当期以前に発生した「売上」に対してのみ設定できます。
高い発生可能性があること
費用や損失を発生させる出来事が、過去の経験等に照らして高い可能性をもって発生することが予想されていなければ引当金を計上することはできません。
そのため、工場に隕石が直撃することに対する「隕石直撃引当金」などを計上することはできません。
金額が合理的に見積り可能であること
費用や損失の金額が、過去の経験等に照らして合理的に見積もることができなければ引当金を計上することはできません。
合理的に見積もれない引当金の計上を認めるということは、経営者が適当に金額を決めることを認めるということになります。
経営者が適当に金額を決めることは利益操作につながります。そのため認められないのです。
【例】貸倒引当金の設定における4要件
引当金の中で最初に勉強する貸倒引当金がきちんと4つの要件を満たしているのか確認してみましょう。
- 将来の特定の費用または損失であること:貸倒れは将来に起こるものだし、売掛金という特定の資産についての費用または損失であるため要件を満たす
- 発生が当期以前の事象に起因すること:貸倒損失は当期以前の売上が原因であるため要件を満たす
- 高い発生可能性があること:貸倒れを避けることはほとんど不可能に近いため要件を満たす
- 金額が合理的に見積り可能であること:過去の貸倒実績に基づいて貸倒引当金の金額を見積もるため要件を満たす
このようになり、貸倒引当金は引当金計上の4要件を全て満たすため、設定することができます。逆に言うと、引当金計上の4つの要件を満たせない場合は貸倒引当金を設定することはできません。
【まとめ】引当金計上の4要件
引当金を計上するためには次の4つの要件を全て満たすことが必要です。
- 将来の特定の費用または損失であること
- 発生が当期以前の事象に起因すること
- 高い発生可能性があること
- 金額が合理的に見積り可能であること
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