- 工業簿記を勉強していると労務費のところで賃率差異が出てきたんだけど……
- 賃率差異の借方が不利差異なのか有利差異なのかよく分からない
- 賃率差異について教えて!
労務費計算で予定賃率を使う方法を勉強すると賃率差異が出てきます。賃率差異の意味は分かりづらいため、不利差異・有利差異のどっちなのか迷ってしまう方が多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん賃率差異についても熟知しています。
この記事では賃率差異の意味や考え方、仕訳について解説します。
この記事を読めば賃率差異の問題が簿記2級で出題されても自信を持って解くことができます。不利差異なのか有利差異なのかで迷うこともなくなります。
結論を一言で言うと、賃率差異は予定賃率と実際賃率の差が原因で発生する差異です。予定よりも実際の方が大きければ不利差異、予定よりも実際の方が小さければ有利差異となります。
賃率差異:予定賃率と実際賃率の差が原因で発生する差異
消費賃率に予定消費賃率を使用する場合には、実際額との差額が生じます。賃金における予定額と実際額の差額を賃率差異といいます。
予定額よりも実際額が多ければ、それだけ多くの原価がかかっているということなので不利差異、予定額よりも実際額が少なければ、少ない原価ですんだということなので有利差異となります。
考え方は材料消費価格差異と同じです。
材料消費価格差異の場合は「消費材料という勘定科目を使う方法」と「消費材料という勘定科目を使わない方法」がありました。
しかし、賃率差異の場合は「消費賃金」という勘定科目を使うことがありません。よって、「消費材料を使う方法」での考え方は賃率差異では出てきません。
「消費材料を使わない方法」での考え方のみを使っていくことになります。
賃率差異の仕訳
賃金の支払い
この例題の仕訳について考えてみましょう。
現金で200,000円支払っているので、『(貸)現金200,000』となります。賃金200,000円を支払っているので、『(借)賃金200,000』となります。
まとめると次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
賃金 | 200,000 | 現金 | 200,000 |
ここまでは実際消費賃率を使用する場合と同じです。
作業時間報告書の明細
この例題の仕訳について考えてみましょう。
1時間あたり190円の予定消費賃率で総就業時間が(400hr+300hr+250hr+50hr=)1,000hrなので、振り替えられる賃金は(190円×1,000hr=)190,000円となります。
よって『(貸)賃金190,000』となります。
次は借方です。特定の製品に対して直接作業されている時間(直接作業時間)は(400hr+300hr+250hr=)950hrなので、(190円/時×950hr=)180,500円が直接労務費になります。
直接労務費は仕掛品勘定に振り替えるので『(借)仕掛品180,500』となります。
また、不特定の製品に対して作業された時間は50hrなので、(190円/時×50hr=)9,500円が間接労務費になります。
間接労務費は製造間接費に振り替えるので『(借)製造間接費9,500』となります。
まとめると次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕掛品 | 180,500 | 賃金 | 190,000 |
製造間接費 | 9,500 |
次は賃率差異です。実際に支払われた賃金が200,000円、予定賃率により振り替えられた賃金が190,000円なので、借方に賃金が10,000円多くなっています。
この賃金を賃率差異に振り替えるので次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
賃率差異 | 10,000 | 賃金 | 10,000 |
この例のように借方に出てくる賃率差異は実際に支払われた賃金が予定よりも多くなったことで発生するので不利差異になります。
【まとめ】賃率差異
賃率差異は予定賃率と実際賃率の差が原因で発生する差異です。
予定賃率よりも実際賃率の方が大きければ、予定よりも多くの労務費がかかってしまったということで不利差異になります。
逆に、予定賃率よりも実際賃率の方が小さければ、予定よりも労務費が少なくすんだということで有利差異となります。
コメント
おはようございます。
疑問に思う点があるのですが、教えてください。
実際作業時間1900を使っている以上
(借)仕掛品 180,500/(貸)賃金 190,000
(借)製造間接費 9,500
という仕訳は月末にしか行えないということになります。賃率差異月末にしか出ません。
そこで疑問なのですが、月末になれば、実際消費賃率でも計算できるのに予定消費賃率を使う意味はあるのでしょうか?
すみませんが、よろしくおねがいします。
予定消費賃率には「消費賃率を一定にする」という目的があります。同じものを同じように作っているのに、たまたま時給が高い「残業中」に作ることで原価が上がったのでは効果的な原価管理ができないというものです。
この考え方はみかんさんはおそらく大丈夫なので、もう一つの「スピード」についてお伝えします。
実際消費賃率の計算は本来はかなり複雑で時間がかかります。それに比べて実際作業時間はタイムカードや作業時間報告書を見ればすぐに分かります。予定消費賃率を使えば、実際作業時間が分かった時点ですぐに仕訳は切れるので、実際消費賃率の計算が複雑な分、実際消費賃率を使う方が遅いと言えます。
ちなみに、エクセルなどの表計算ソフトが発達している現在では実際消費賃率を使ってもそれほど時間はかからないので、この説明はやや時代遅れの感はあります。ただ、給料の締め日と支払日に差(20日締めの25日払いといった感じです)があるのは実際消費賃率などの複雑な計算を行っていたからだと言われています。
お答えありがとうございます。
個人的に思っていた答えと違う回答が返ってきたので意外でしたが、時代遅れなんですね。
ちなみに個人的に思っていたのは
例えば1日~10日でA製品が完成したとしたら、
A製品が完成するのにかかった時間はすでに判明しているので、予定消費賃率をつかえば10日にA製品にかかった労務費の計算ができるからだと思っていました。同様に材料費、製造間接費も予定で行えばA製品の当期製品製造原価がわかるので、それが目的の1つかと思っていたのですが、見当違いでしょうか?
テキスト等に書いてあったわけでなくて、個人的に思っていただけなので間違っている可能性は高いですが。
みかんさんのおっしゃるとおりです。個別原価計算の場合、みかんさんがおっしゃるように途中で完成した場合には月末まで待たずに原価を計算できます。
私が勝手に「総合原価計算」だと思い込んでいました。私の回答は「総合原価計算における」予定賃率の計算の迅速化だとご理解ください。
早とちり、失礼しました。
お答えありがとうございます
私は個別原価計算のことばかり頭にありましたが、総合原価計算でも計算の迅速化(昔は特に)につながるのですね。
とてもスッキリしました。
いろいろと教えていただきありがとうございました。
いえいえ。ちなみに個別原価計算や総合原価計算という指示がなかった場合、みかんさんのお答えの方が正解になります。
私の回答は実務色が強いので、参考程度に考えてください。