製造間接費差異
- 投稿日:2016年1月24日 |
- 最終更新日:2016年9月19日 |
- カテゴリ:工業簿記2級
こんにちは、簿記合格請負人の平野です。この記事では製造間接費差異について解説します。
製造間接費差異
製造間接費差異は、製造間接費の標準配賦額と実際配賦額との差額です。製造間接費差異を求める計算式は次のようになります。
- 製造間接費差異=(標準配賦率×標準時間)-実際発生額
この製造間接費は部門別に予算差異、変動費能率差異、固定費能率差異、不動能力差異などに分析します。ちなみに、標準配賦率に標準時間をかけた金額を標準配賦額といいます。
予算差異
予算差異は実際操業度における予算許容額から実際発生額を引いて計算します。予算差異を求める計算式は次のようになります。
- 予算差異=実際操業度における予算許容額-実際発生額
製造間接費の予定配賦における予算差異と同じです。
変動費能率差異
変動費能率差異は標準操業度と実際操業度の差に変動費率をかけて計算します。変動費能率差異を求める計算式は次のようになります。
- 変動費能率差異=(標準操業度-実際操業度)×変動費率
変動費能率差異は変動費における作業能率の差異を表しています。能率が悪いことで原価が大きくなれば不利差異、能率がよくなることで原価が小さくなれば有利差異となります。
固定費能率差異
固定費能率差異は標準操業度と実際操業度の差に固定費率をかけて計算します。固定費能率差異を求める計算式は次のようになります。
- 固定費能率差異=(標準操業度-実際操業度)×固定費率
固定費能率差異は固定費における作業能率の差異を表しています。能率が悪いことで原価が大きくなれば不利差異、能率がよくなることで原価が小さくなれば有利差異となります。
不働能力差異
不働能力差異は実際操業度と基準操業度の差に固定比率をかけて計算します。不働能力差異を求める計算式は次のようになります。
- 不働能力差異=(実際操業度-基準操業度)×固定比率
不働能力差異は製造間接費の予定配賦における操業度差異と同じです。
これらの計算式は覚える必要はありません。次に解説するシュラッター図を使って計算します。
シュラッター図による製造間接費差異の考え方
標準原価計算における製造間接費差異のシュラッター図の前に製造間接費の予定配賦のシュラッター図について確認しておきましょう。製造間接費の予定配賦のシュラッター図は次のようなものでした。
このシュラッター図をもとに標準原価計算における製造間接費差異のシュラッター図を作ります。標準原価計算における製造間接費差異のシュラッター図は次のようなものになります。
赤字の部分が標準原価計算における製造間接費差異のシュラッター図で新たに加わる部分です。
- 標準操業度を実際操業度の内側に追加(操業度の大きさに関わらず必ず内側です。)
- 変動費能率差異は実際操業度と標準操業度の差が原因で発生する差異の変動費の部分
- 固定費能率差異は実際操業度と標準操業度の差が原因で発生する差異の固定費の部分
- 操業度差異は不働能力差異と名前が変わる(絶対ではありません。詳しくは後述します。)
ちなみに、変動費率と固定費率の合計は製造間接費の予定配賦では予定配賦率といいますが、標準原価計算では標準配賦率といいます。
このシュラッター図をきちんと使えれば計算式を覚えなくても製造間接費差異分析はできます。計算式を覚えず、シュラッター図の使い方を身につけてください。
不利差異と有利差異の判断
- 不利差異=借方差異=借方に発生するから「費用」
- 有利差異=貸方差異=貸方に発生するから「収益」
まずは上の考え方を身につけてください。次にこの考え方に下の考え方を積み重ねてください。
- 実際>予算=予算よりも多くの費用がかかっている=不利差異
- 実際<予算=予算よりも少ない費用ですんでいる=有利差異
- 実際>標準=予定よりも多くの費用がかかっている=不利差異
- 実際<標準=予定よりも少ない費用ですんでいる=有利差異
- 実際>基準=基準よりも多く設備が稼動している=有利差異
- 実際<基準=基準よりも少ない時間しか設備が稼動していない=不利差異
このように考えれば、暗記しなくても不利差異と有利差異の判断ができます。
いくつかの差異の分類の方法
ここまでは四分法を前提にお伝えしてきましたが、他にいくつかの分類の方法があります。表でまとめると次のようになります。
4分法 | 3分法(1) | 3分法(2) | 2分法 |
---|---|---|---|
予算差異 | 予算差異 | 予算差異 | 管理可能差異 |
変動費能率差異 | 能率差異 | 能率差異 | |
固定費能率差異 | 操業度差異 | 操業度差異 | |
不働能率差異 | 操業度差異 |
いくつかの注意点を次にあげておきます。
- 3分法(1)の能率差異と3分法(2)の能率差異は同じ名前だが表しているものが違う
- 3分法(1)と2分法の操業度差異と3三分法(2)の操業度差異は同じ名前だが表しているものが違う
このように同じ名前の差異でも分類の方法が違えば表す差異が変わってくる場合があります。
- 4分法の不働能率差異と3分法(2)の操業度差異は同じ意味だが名前が違う
- 4分法の変動費能率差異と3分法(1)の能率差異は同じ意味だが名前が違う
また、このように同じ意味の差異であっても分類の方法が違えば名前が違ってくる場合もあります。
このように細かい違いがありますが、簿記検定では指示があるのであまり神経質になる必要はありません。何となく覚えて練習しておけば対応できます。「○○差異は○○という意味だ」というように決め付けないようにしましょう。
製造間接費予算の種類
製造間接費予算の種類には変動予算と固定予算があります。また、変動予算は公式法変動予算と多桁式変動予算に分けられます。これらのうち、簿記2級では公式法変動予算が出題されるので、公式法変動予算を中心に学習してください。
製造間接費差異の具体例
資料
1.標準原価カード(製品1単位あたりの標準原価)
標準消費数量 | 標準消費価格 | 標準原価 | |
---|---|---|---|
製造間接費 | 2時間 | @300円 | 600円 |
2.当月の生産実績
月初仕掛品 500個(40%)
当月投入 2,500個
計 3,000個
月末仕掛品 600個(50%)
完成品 2,400個
- 直接労務費の標準作業時間は5,000時間である。
- カッコ内は加工進捗度を表す。
3.当月原価実績(実際原価)
- 製造間接費…1,600,000円
- 直接作業時間の実際操業度…5,200時間
4.製造間接費予算および基準操業度(年間)
- 変動費…7,200,000円
- 固定費…14,400,000円
- 基準操業度…72,000時間(直接作業時間を配賦基準とする)
- 公式法変動予算(3分法:能率差異は変動費のみから計算する方法)を採用している
この資料をもとに製造間接費差異の差異分析を行ってみましょう。
考え方
まずはシュラッター図で考えます。シュラッター図は次のようになります。
操業度は直接作業時間基準を採用しているので、標準時間と実際時間は直接労務費で示されている数字を使います。計算が必要なものについては次のとおりです。
- 基準操業度(6,000時間)=年間の基準操業度(72,000時間)÷(12ヶ月)
- 変動費予算(600,000円)=年間の変動費予算(7,200,000円)÷(12ヶ月)
- 固定費予算(1,200,000円)=年間の変動費予算(14,400,000円)÷(12ヶ月)
- 変動費率(100円)=変動費予算(600,000円)÷基準操業度(6,000時間)
- 固定費率(200円)=固定費予算(1,200,000円)÷基準操業度(6,000時間)
- 標準操業度(5,000時間)=製品1単位あたりの標準消費数量(2時間)×当月投入量(2,500個)
- 標準配賦額(1,500,000円)=標準配賦率(100円+200円)×標準操業度(5,000時間)
当月投入量は次のボックス図から分かります(製造間接費は加工費なので加工進捗度を考慮しなければなりません)。
次に、それぞれの差異を計算して求めましょう。シュラッター図は次のようになります。
一応計算式を示すと次のようになりますが、この計算式を覚える必要はありません。
- 変動費能率差異(20,000円)=(標準操業度5,000時間-実際操業度5,200時間)×変動費率(@100円)
「実際操業度>標準操業度」なので予定より多く原価がかかってしまっているところから不利差異となります。
- 固定費能率差異(40,000円)=(標準操業度5,000時間-実際操業度5,200時間)×固定費率(@200円)
「実際操業度>標準操業度」なので予定より多く原価がかかってしまっているところから不利差異となります。
- 不働能力差異(160,000円)=(実際操業度5,200時間-基準操業度6,000時間)×固定費率(@200円)
「実際操業度<基準操業度」なので基準よりも少ない時間しか設備が稼動していないところから不利差異となります。
- 予算差異(120,000円)=実際操業度における予算許容額(変動費率100円×実際操業度5,200時間+固定費予算1,200,000円)-実際発生額(1,600,000円)
「実際操業度における予算許容額>実際発生額」=予算よりも少ない費用ですんでいるところから有利差異となります(計算式では不利差異はマイナスとなるのですが、面積図ではマイナスとはならないので、ここでもそれぞれの差異はプラスで表しています)。
- 製造間接費差異(100,000円)=(標準配賦率@300円×標準作業時間5,000時間)-実際発生額(1,600,000円)
また、製造間接費差異は全ての差異の合計なので以下の式も成り立ちます(ここでは不利差異をマイナスの数で表しています)。
- 製造間接費差異(-100,000円)=変動費能率差異(-20,000円)+固定費能率差異(-40,000円)+不働能力差異(-160,000円)+予算差異(120,000円)
解答
- 製造間接費差異:100,000円(不利差異)
- 予算差異:120,000円(有利差異)
- 変動費能率差異:20,000円(不利差異)
- 操業度差異:200,000円(不利差異)
「3分法:能率差異は変動費のみから計算する方法」を採用するという指示より、固定費能率差異と不働能力差異を合わせたものが操業度差異となります。
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■序盤少し読んでみたのですが、間違いがありませんか?
まず、製造間接費差異は標準操業度における標準配賦額と実際操業度における標準配賦額の差額です。
という説明がありますが、これは間違いではないですが、この説明は能率差異の説明ですよね。
またその文の下に製造間接費差異の算式、とありますがなぜか直接労務費を求めるには、といういきなり労務費が出てきます。この算式も能率差異の算式ですよね。
■すみません。
私の指摘も的外れでした。もっと勉強します。
ご指摘ありがとうございます。
>なぜか直接労務費を求めるには、といういきなり労務費が出てきます。
この部分はおっしゃるとおりで、明らかに誤植です。誤植は自分ではなかなか気付かないので、ご指摘いただけると本当に助かります。
能率差異に関するご指摘についてはご自覚なされていらっしゃるので、特に申し上げることはございません。簿記の勉強応援しています。
すみません。操業度差異が200,000円になるのが分かりません。
ご指導いただけますと有難いです。
何を見てもどこのサイトを見ても標準原価計算の謎が出てくるばかりで・・・。
コメントありがとうございます。
操業度差異が200,000円になるのが分からないとのことですが、どういった意味で分からないとお感じなのでしょうか。「なぜその金額になるのか」なのか「操業度差異が何を意味するのか」なのか「『3分法:能率差異は変動費のみから計算する方法』が分からないのか」つかみきれないでいます。
少々言葉を足していただけるとお答えしやすいです。