- 貸倒引当金って何のために設定するんだろう……
- 貸倒れたときに貸倒損失として処理するだけではダメな理由が分からない
- 貸倒引当金を設定する目的を教えて!
貸倒引当金は簿記3級でも勉強する内容ですが、考え方は非常に難しいので、何も考えずに貸倒引当金を設定している方が非常に多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん貸倒引当金を設定する目的についても熟知しています。
この記事では貸倒引当金を設定する目的について解説します。
この記事を読めば貸倒引当金を設定する目的が理解できるので、貸倒引当金をスムーズに理解することができますし、様々な引当金の理解も深まります。
結論を言うと、貸倒引当金は費用と収益を対応させて正確な期間損益を算定するために設定します。
貸倒引当金を設定する目的:経営成績を明らかにするため
なぜ貸倒引当金を設定しなければならないのでしょうか。貸し倒れたときに次の仕訳を切ればそれで十分だとは言えないのでしょうか。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
貸倒損失 | ××× | 売掛金など | ××× |
実は、この仕訳ではまずいのです。貸倒引当金を設定する目的は企業の正しい経営成績を明らかにするためです。正確な期間損益の算定のため、収益と費用を対応させるためともいえます。
貸倒損失の原因は前期にある
貸倒損失が発生した場合、貸倒損失の原因はいつなのでしょうか。
前期に売り上げて、当期にその売上によって受け取った売掛金が貸倒れた場合、この貸倒損失の原因は前期にあるのでしょうか。それとも当期にあるのでしょうか。
結論から言うと、前期です。前期の売上がなかったら、この貸倒損失も発生しなかったはずです。前期の売上が貸倒損失の原因なのです。
ということは、貸倒損失も前期に発生するようにしないとまずいわけです。
しかし、発生していない貸倒損失の正確な金額は分かりません。そこで、合理的に見積もります。
貸倒引当金を設定する目的:費用と収益を対応させるため
企業会計原則に「費用収益対応の原則」というものがあります。文字通り、費用と収益を対応させなければならないというものです。
費用というものは収益を得るために使われた犠牲のようなものです。釣りでたとえれば、費用はエサ、収益は魚です。
この場合、使ったエサと捕った魚は対応していなければなりません。その日の正しい利益を計算するためには次のようにならなければならないのです。
- 収益…その日に捕った魚
- 費用…その日に捕った魚を得るために使ったエサ
別の日に捕った魚のために使ったエサをこの費用に混ぜてしまってはいけません。
では、売上の例に戻りましょう。前期に次の仕訳を切っているということは、売上(収益)は前期に計上されているはずです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | ××× | 売上 | ××× |
売上(収益)は前期に計上されているならば、売掛金から出るであろう貸倒損失(費用)も前期に計上されなければならないのです。
この原則を費用収益対応の原則といいます。費用収益対応の原則は、正確な期間損益の算定のために行われます。
正確な期間損益の算定のために貸倒引当金を設定するのです。
【まとめ】貸倒引当金を設定する目的:費用と収益を対応させるため
貸倒引当金は費用(貸倒損失)と収益(売上)を対応させて正確な期間損益を算定するために設定します。
コメント
■こんばんは
いつもお世話になっております。
少し質問させて下さい。
質問①
費用収益対応の原則は理解できるのですが、では貸倒引当金を設定した以上に売掛金を回収できなくなったときの仕訳
貸倒引当金1000 売掛金1200
貸倒損失200
がありますが、この仕訳をおこなったときの
貸倒損失200は費用収益対応の原則からはずれていることになるのですが大丈夫なのでしょうか?
質問②
貸倒引当金を設定するときは3、2級では一般債権を対象に設定していますが、同じ一般債権でもA社の売掛金1000円とB社の売掛金2000があった場合に検定試験では2社の売掛金3000円に対して3%を設定しています。実際は一社ずつ設定するのでしょうか?
なぜこのような質問をするかというと、期中にB社が倒産したときに貸倒引当金残高が2000あればそれをつかって
貸倒引当金2000 売掛金2000
としているのが疑問におもったからです。
1社ずつ設定するのであればB社の分は2000×3%なら600円しかないような気がします。そのほかの1400円は他社の分のような気がします。
かなりおかしなことを言っているとは思うのですが、なぜこのようなことを言うのかというと、退職給付引当金の問題で「A社員が退職した。A社員に設定された退職給付引当金は300,000でありA社員に支払われる退職金は500,000であった」という問題をみたことがあり、
仕訳は
退職給付引当金30,000 当座預金500,000
退職給付費用200,000
でしたので、この場合社員別に引当金が設定されており使う時も他人に設定された引当金はつかえないのかなと感じたからです。
もしかしたら社員がAしかいないという設定なのかもしれません(仕訳問題でしたのでどういう設定なのかは不明です)。
すみませんが、いろいろと私が勘違いしている点をご指摘いただけると助かります。
よろしくお願いします。
■訂正です
1社ずつ設定するのであればB社の分は2000×3%なら60円しかないような気がします。そのほかの1960円は他社の分のような気がします。
コメントありがとうございます。
早速ご質問の件ですが、
質問1
みかんさんのおっしゃるとおりです。みかんさんが書かれた仕訳例に出てくる貸倒損失は前期の損益を修正する意味があります。
このような前期の損益を修正する意味があるものは特別利益や特別損失という枠で処理します。この枠は損益計算書の下の方にあります。
費用収益対応の原則から外れることにはなりますが、費用として計上しないわけにはいかないので、この枠に記入することになります。
前期損益修正については簿記1級の範囲になっていると思います。
質問2
一般債権については1社ずつ設定することはありません。してはいけないわけではありませんが、煩雑になりすぎるからです。
逆に一般債権以外の債権については個別に貸倒引当金を引き当てることが多いです。
一般債権以外の債権は過去の実績から貸倒率を設定することができませんし(実績になるほど過去のデータがない)、数も少ないため個別に引き当てても特に手間にはならないからです。
ちなみに一般債権の貸倒れを一般債権以外の貸倒引当金を取り崩すことで処理することはできません。
退職給付引当金の例ですが、私もこれだけの情報では正確なところはわかりません。ただ、このような問題の出され方をされた場合はみかんさんの書かれた仕訳を切るしかないかと思います。
お答えありがとうございます。
問1に関しては1級の範囲だったのですね。
気にしないでおきます。
>一般債権については1社ずつ設定することはありません。してはいけないわけではありませんが、煩雑になりすぎるからです。
>逆に一般債権以外の債権については個別に貸倒引当金を引き当てることが多いです。
とてもわかりやすく教えていただきありがとうございます。
>ちなみに一般債権の貸倒れを一般債権以外の貸倒引当金を取り崩すことで処理することはできません。
追加の情報もとてもありがたいです。
このたびはお答えありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
いえいえ、とんでもないです。
簿記の勉強がんばってください。応援しています。
本来であれば、前期の損益計算書に「貸倒損失」として計上しなければならないが、実際に発生していない且つ金額が分からないから「資産の減少」という意味で貸倒引当金を設定しているということですかね?
ということは、前期の時点ですでに資産を減少させているということは、当期に貸倒として資産の減少を仕訳に書くというのは、2度資産を減少させていることにはならないのでしょうか?
分かりにくく書いてしまい伝わらなかったらすみません。
コメントありがとうございます。早速ご質問にお答えします。
>本来であれば、前期の損益計算書に「貸倒損失」として計上しなければならないが、実際に発生していない且つ金額が分からないから「資産の減少」という意味で貸倒引当金を設定しているということですかね?
そのとおりです。予想される貸倒損失を合理的に見積もって貸倒引当金を計上することになります。
>前期の時点ですでに資産を減少させているということは、当期に貸倒として資産の減少を仕訳に書くというのは、2度資産を減少させていることにはならないのでしょうか?
前期に次の仕訳を切っています。
(借)貸倒引当金繰入(費用)×××/(貸)貸倒引当金(マイナスの資産)×××
そして当期に貸倒れが実際に起きた場合には次の仕訳を切ります。
(借)貸倒引当金(マイナスの資産)×××/(貸)売掛金など(資産)×××
この2つをまとめて考える(貸倒引当金を相殺する)と同じ資産を二重で減少させていることにはならないことが分かると思います。ちなみに、この貸倒れによる損失は前期に計上しているので、当期の仕訳からは費用(損失)は発生していません。
このように考えてみるといいと思います。
ありがとうございます。
とすると、前期の「資産の金額ー貸倒引当金」の金額から、当期にまた「資産の金額ー貸倒引当金」と2重にはなりませんかんね?
コメントありがとうございます。例えば前期末の貸借対照表が次のような場合を考えてみてください。
売掛金(総額) 10,000
貸倒引当金 △100
売掛金(純額) 9,900
この状態で当期に実際に貸倒れることで当期末には次のようになります(当期末の貸倒引当金の計上は本題とずれるのでないものとします)。
ちなみに、ここで切られる仕訳は「(借)貸倒引当金100/(貸)売掛金100」です。
売掛金(総額)9,900
貸倒引当金 0
売掛金(純額) 9,900
つまり、売掛金と貸倒引当金がどちらもなくなり、純額は変わらないということになります。
前期では予想の貸倒引当金だけ計上しており、間接的には削除しているが仕訳はしていない。
→当期では予想通り実際に貸し倒れたので貸倒引当金を崩し、実際に資産を減らす仕訳を行う。
こういう流れでしょうか?
ご回答の当期の売掛金に変動がない理由は、貸倒引当金の増減が行われたからということでしょうか?
コメントありがとうございます。
>前期では予想の貸倒引当金だけ計上しており、間接的には削除しているが仕訳はしていない。→当期では予想通り実際に貸し倒れたので貸倒引当金を崩し、実際に資産を減らす仕訳を行う。こういう流れでしょうか?
おっしゃっているとおりだと思います。
※「間接的には削除している」の一言が気になったのですが、売掛金は「代金を請求する権利」ですので、次期の貸倒れを見積もるだけではなくなりません。売掛金、つまり代金を請求する権利がなくなるのは「実際に回収したとき(権利の履行)」「権利を第三者に譲渡したとき(売掛金ではあまりありませんが……)」「権利を放棄したとき(貸倒れはここに含まれます)」のいずれかです。貸倒れをただ見積もっただけで「(貸)売掛金×××」をイメージされているのであれば、取引自体の理解に少し誤解があります。私の考えすぎであれば読み飛ばしてください。
次の仕訳で考えてみて下さい。
前期末
(借)貸倒引当金繰入額×××/(貸)貸倒引当金×××←売掛金は全く減少していません
貸倒時
(借)貸倒引当金×××/(貸)売掛金×××←ここで売掛金が減少します
>ご回答の当期の売掛金に変動がない理由は、貸倒引当金の増減が行われたからということでしょうか?
貸倒時の仕訳で売掛金と貸倒引当金が同額減少するので、「売掛金-貸倒引当金」は変動しないということです。
その取引によって「資産・負債・純資産・収益・費用」のどれが増減しているのかに注目して仕訳で考えるくせをつけることが大切です。売掛金が減少していないのに「(貸)売掛金×××」といった仕訳をしない限り、売掛金が2度減少することはありえないことに気付くと思います。
平野さんの指摘の通り、前期末で売掛金が間接的に減少するものだと思っていました。
貸借対照表で 売掛金
△貸倒引当金
と表示しているので、実際には減っていないけれど貸倒引当金分の金額が引かれた金額が当期の期首の売掛金の残高という認識です。
また、もし引当金を設定したにも関わらず貸し倒れなかった場合は繰入額は無駄だったという結果になるのでしょうか。
コメントありがとうございます。「売掛金(総額)は減っていないけれど全額は回収できなさそうだから回収できることが見込まれる売掛金(純額)を表示する」というイメージです。回収できないと予想される分が貸倒引当金です。
>もし引当金を設定したにも関わらず貸し倒れなかった場合は繰入額は無駄だったという結果になるのでしょうか。
そうですね。取り越し苦労だったとは言えそうです。貸倒引当金は過去の貸倒率から合理的に見積もって計上するので概ね想定どおりに貸倒れるのですが、もし貸倒れなかった場合、結果的には無駄だったといえます(あくまでも結果論で、設定したこと自体が誤りというわけではありません)。
もし貸倒れずに当期末まで残った貸倒引当金はそのまま当期末にスライドする形になります。この点については「貸倒引当金(差額補充法)の取引と仕訳」が詳しいです。
なるほど、質問を繰り返し回答をもらっていくうちにある程度は理解できるようになりました。
これは収益費用原則だけでなく、真実性の原則の影響もあるのでしょうか?
今まで、こういう取引があるから覚えとけばいいやと浅い認識だっだので、割と深まりした。
長々と質問してしまいましたが、真摯に対応してくださり誠にありがとうございます。
ご返信ありがとうございます。真実性の原則は簿記を貫く大原則ですので多少の影響はあると思いますが、貸倒引当金を論ずるときに真実性の原則が話題になることはあまりないように思います。
こちらこそありがとうございます。簿記の勉強、応援しています。