【簿記】発送費(送料)の勘定科目と仕訳

  • 商品を売り上げたときに費用が発生する問題が出てきたんだけど……
  • 発送費を売上から控除しない理由が分からない
  • 発送費の仕訳について教えて!

商品を販売したときには色々な費用がかかります。この費用を発送諸掛と言います。仕入諸掛は仕入勘定に含めるのに、発送諸掛は売上勘定から控除しないという点を難しいと感じる方が非常に多いです。

私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん発送諸掛についても熟知しています。

この記事では発送諸掛の仕訳と発送諸掛を売上に含めない理由について解説します。

この記事を読めば簿記3級の本試験で発送諸掛が出題されても自信を持って解答できるようになります。

結論を言うと、当社が負担すべき発送諸掛は発送費という勘定科目を使って処理します(簿記3級)。取引相手が負担する場合は売掛金に加算するか立替金という勘定科目を使って処理します(簿記1級)。

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発送費という勘定科目は商品の発送にかかる費用を意味する

商品の発送にかかる発送費のことを発送諸掛といいます。発送諸掛は商品を売上げるのに欠かせない費用です。発送諸掛の代表例は送料、運賃です。

発送諸掛は売上から控除しません(理由についてはこの記事の後半でお伝えします)。仕入諸掛の場合は仕入に含めるのが原則だったのですが、発送諸掛の場合は売上から控除しないのです。

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仕入諸掛については「仕入諸掛とは【なぜ仕入(売上原価)に含めるのか】」で詳しく解説しています。

仕入諸掛の処理とは決定的に違うところなので、混同しないようにしてください。発送費という勘定科目で処理します。

また、契約の内容によっては、仕入諸掛と同様、発送諸掛が先方負担になっていることもあります。

発送諸掛を先方が負担する取引は簿記1級の範囲です。

発送諸掛が先方負担の場合は仕訳不要ですが、先方に立て替えて一時的に自分が支払う場合は仕訳が必要です。

立替払いをする場合は、次の2通りがあります。

  • 立て替えて支払った分だけ売掛金を増加させる
  • 立替金という勘定科目で処理する

表にまとめると、次のようになります。

当社負担売上先負担
当社支払支払運賃売掛金にプラスまたは立替金
売上先支払(清算時)支払運賃仕訳なし
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立替金については「立替金とは【仕訳と勘定科目をわかりやすく】」で詳しく解説しています。

発送費は商品を送るときに使う勘定科目、通信費は情報を送るときに使う勘定科目

発送費と間違いやすい勘定科目に「通信費」があります。通信費も何かを送るときに使うことがあるからです。

通信費は「情報」を送る場合に使います。送るものが「手紙」「書類」などであれば通信費、「商品」であれば発送費になります。

簿記検定の問題は商品を送ることがほとんどなので、使用する勘定科目も発送費がほとんどです。

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通信費については「通信費とは【仕訳と勘定科目をわかりやすく】」で詳しく解説しています。

発送費の仕訳

1.発送費を当社で負担する場合(簿記3級)

例題

A商店に商品300,000円分を掛で売上げ、送料20,000円を現金で支払った。送料は当社が負担している。

この例題の仕訳を考えてみましょう。

商品部分については通常の売上の仕訳(三分法)と同じなので特に問題ありません。

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三分法の仕訳については「三分法の仕訳を例題でわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000

次は送料20,000円についてです。送料20,000円は現金で支払っているので『(貸)現金20,000』となります。

問題は借方です。売上から控除はしないので『(借)売上20,000』ではありません。発送費で処理します。

送料20,000円は当社が負担する契約なので当社の費用です。そこで、費用の勘定科目である発送費で仕訳を切ります。『(借)発送費20,000』となります。

まとめると、次のようになります。

借方金額貸方金額
発送費20,000現金20,000

これら2つの仕訳をまとめると、次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000
発送費20,000現金20,000

2.発送費を相手が負担する場合(売掛金の増加で処理)(簿記1級)

例題

A商店に商品300,000円分を掛で売上げ、送料20,000円を現金で立替払いした。なお、立替払いした送料は売掛金の増加で処理する。

この例題の仕訳を考えてみましょう。

商品部分については1と同じです。次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000

次は送料20,000円についてです。現金で支払っているので、現金は20,000円減少しています。資産の減少なので、貸方に記入です。『(貸)現金20,000』となります。

ここまでは1と全く同じです。

問題は借方です。この20,000円は本来支払う義務はありません。A商店の代わりに支払っているだけだからです。

送料の支払いは当社の費用ではないため、費用の勘定科目で仕訳を切るわけにはいきません

例題の指示のとおり、売掛金の増加で処理します。

商品を売上げたときに借方に立てた売掛金の300,000円というのは、商品の代金を後でA商店に請求する債権(権利)です。300,000円に立替払いした20,000円を加えても特に問題ありません。

そこで、A商店に一言「A商店負担の送料20,000円を売掛金300,000円に加算しておきます」と断って『(借)売掛金20,000』と記入します。資産の増加なので借方に記入することになります。

まとめると、次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金20,000現金20,000

2つの仕訳をまとめると、次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金320,000売上300,000
現金20,000

売掛金勘定は(商品代金300,000円+発送費20,000円=)320,000円となっています。

3.発送費を相手が負担する場合(立替金勘定で処理)(簿記1級)

例題

A商店に商品300,000円分を掛で売上げ、送料20,000円を現金で立替払いした。なお、立替払いした送料は立替金勘定で処理する。

この例題の仕訳を考えてみましょう。

商品部分については1と同じです。次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000

次は送料20,000円についてです。現金で支払っているので、現金は20,000円減少しています。資産の減少なので、貸方に記入です。『(貸)現金20,000』となります。

ここまでは1と全く同じです。

問題は借方です。送料を費用の勘定科目にできないのは2と同じです。

問題文の指示通り立替金で処理します。立替金という勘定科目は本来支払わなければならない人に代わって一時的に支払う場合に使う勘定科目です。

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立替金については「立替金とは【仕訳と勘定科目をわかりやすく】」で詳しく解説しています。

「本来支払わなければならない人に対して立替分を請求する権利」と考えられるため資産の勘定科目になります。

ここで支払っている20,000円は立替金勘定にあてはまります。資産の増加なので借方に記入です。

まとめると、次のようになります。

借方金額貸方金額
立替金20,000現金20,000

2つの仕訳をまとめると、次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000
立替金20,000現金20,000

それぞれの仕訳をきちんと理解しておくことが重要です。覚えるのではありません。理解して自分で仕訳を切れるようにしておくことが大切です。

発送費を売上から控除しない理由は費用収益対応の原則を守るため

企業会計では費用と収益は対応していなければなりません。そのことについて考えていきます。

先ほどお伝えしたように「A商店に商品300,000円分を掛で売上げ、送料20,000円を現金で支払った」場合(送料当社負担)の仕訳は次のようになります。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000
発送費20,000現金20,000

なぜ仕入諸掛のときと同じように発送諸掛を売上から控除して次のようにしてはいけないのでしょうか。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上280,000
現金20,000

それ以前に、なぜ次の仕訳が認められているのでしょうか。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000
発送費20,000現金20,000

発送諸掛において収益と費用は対応している

仕入諸掛の場合、次の仕訳では収益と費用が対応しないため認められません。

借方金額貸方金額
仕入150,000買掛金150,000
発送費10,000現金10,000

発送費は仕入れた商品全てにかかりますが、全ての商品が売れるとは限らないからです。送料が収益と対応しないので、送料を発送費勘定で処理してはいけません。

しかし、発送諸掛では、次の仕訳が認められています。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上300,000
発送費20,000現金20,000

送料を発送費勘定で処理してもいいのです。発送諸掛の場合は収益と費用が対応しているからです。仕入諸掛は仕入れた時点で発生するので、売れたか売れなかったかに関わらず発生します。

しかし、発送諸掛は売れた時点で初めて発生するので、売上げた分しか発生しないのです。そのため、発送諸掛を全て費用として処理しても収益と費用は対応しているのです。

では、なぜ次の仕訳は認められないのでしょうか。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上280,000
現金20,000

費用及び収益は、総額によって記載することを原則とする

収益と費用は総額で記載しなければなりません。売上100円、売上に対応する費用が80円だった場合に、勝手に純額にして、利益20円と記帳するわけにはいかないということです。

純額で表示してしまうと、売上の規模が分からなくなってしまいます。

利益が10,000円だと分かっても、収益1,000,000円、費用990,000円で利益が10,000円なのか、収益20,000円、費用10,000円で利益10,000円なのか分からないのです。

売上の規模は投資家などの利害関係者にとって重要な情報です。売上の規模が分かるように費用と収益は総額で記載しなければならないのです。

ところが、次の仕訳は、総額によって記載しなければいけないという決まりを破ってしまっています。

借方金額貸方金額
売掛金300,000売上280,000
現金20,000

売上と費用(送料)が相殺されてしまっているのです。売上と費用が相殺されてしまうと売上の規模が小さく見えてしまいます。

こういった理由により、売上と発送費を相殺する会計処理は認められないのです。

このような形で理解しておくと仕入諸掛と発送諸掛の処理の違いを混同せずにすみます。仕訳は丸暗記ではなく、理解することが大切です。

【まとめ】発送費(送料)の勘定科目と仕訳

商品の発送にかかる発送費のことを発送諸掛と言います。当社が負担する発送諸掛は売上から控除せず、発送費という勘定科目で処理します。

取引相手が負担する発送諸掛を立て替えて支払った場合は、「立て替えて支払った分だけ売掛金を増加させる」「立替金勘定で処理する」のどちらかで処理します。

発送諸掛を売上から控除しないのは収益と費用は総額で記載しなければならないからです。

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コメント

  1. ミクド より:

    ■初心者なんですが

    (借)売掛金 300,000/(貸)売上 300,000

    (借)立替金 20,000/(貸)現金 20,000

    (借)売掛金 300,000/(貸)売上 300,000
    (貸)立替金 20,000/(貸)現金  20,000

    (借)立替金 20,000 → (貸)立替金 20,000

    なんで こうなるのか分かりませんです。

    • dokuboki より:

      コメントありがとうございます。

      これは私のミスです。誤植です。貸方ではなく借方ですね。

      修正しておきます。ご指摘ありがとうございました。

      • ミクド より:

        悩みが晴れました。お返事ありがとうございます。

        • dokuboki より:

          いえいえ。こちらこそご指摘ありがとうございます。ミスは意外と自分では気付けないので、ご指摘いただけると助かります。

          今後も何かあれば悩まずにコメントください。

  2. dokidoki より:

    教えてください。
    ●最初の仕分けは正解なんですよね?

    2つの仕訳をまとめると、次のようになります。

    売掛金320,000/売上300,000
    現金20,000

    売掛金勘定は(商品代金300,000+発送費20,000=)320,000となっています。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ●下記仕訳は何故だめなんでしょうか?金額は違えど同じだと思います。

    ところが、次の仕訳は、総額によって記載しなければいけないという決まりを破ってしまっています。

    売掛金300,000/売上280,000
    現金20,000

    売上と費用(送料)が相殺されてしまっているのです。
    売上と費用が相殺されてしまうと売上の規模が小さく見えてしまいます。

    • 平野 より:

      コメントありがとうございます。早速ご質問にお答えします。

      (借)売掛金 300,000/(貸)売上 280,000・(貸)現金20,000

      この仕訳は本来の仕訳と比較すると売上が20,000、売掛金も20,000減っています。商品を300,000円売っているのに売上が280,000円しか計上していないのはまずいということになります。

      同様に売掛金も売上300,000円と立て替えた発送費20,000円の合計320,000円あるはずなのに、300,000円しか請求権がないことになってしまいます。

      こういった理由から、取引を正確に表していないのでまずいです。

  3. ヒロ より:

    商品ではない場合どうなりますか?
    備品を購入した時に運送費を現金で払った場合の仕分けはどうすればいいですか?

    • 平野 より:

      ご質問ありがとうございます。備品を買った場合も、取得原価に算入します。備品を購入したのであれば備品になります。

      仮に「100,000円の備品を現金で購入し、送料10,000円を現金で支払った」という場合の仕訳は次のようになります。

      (借)備品110,000/(貸)現金110,000

  4. あき より:

    はじめまして、現在簿記三級を勉強している者です。

    問題集を解いていて、

    商品8000円に送料500円を加算した合計額で販売し、代金は掛けとした。なお送料500円は現金で支払った。

    という問題があり、解答は

    (借)売掛金 8500/(貸)売上 8500
    (借)発送費 500/(貸)現金 500

    となっていましたが、納得がいきません。

    これは、発送費を相手が負担する場合なので、

    (借)売掛金 8500/(貸)売上 8000
    /(貸)現金 500

    とするか、立替金を用いて

    (借)売掛金 8000/(貸)売上 8000
    (借)立替金 500/(貸)現金 500

    とするのが正解ではないのでしょうか?
    独学で聞ける人がいないので教えていただけると嬉しいです。

    • 平野 より:

      コメントありがとうございます。早速ご質問にお答えします。

      あきさんが納得いかないのはもっともです。以下、簿記3級を学習中のあきさんにはやや難しいかもしれませんが、ご説明します。

      「発送費」という論点は「収益認識に関する会計基準」という最近改定された会計基準と関わっています。収益認識基準を発送費に適用する場合、「商品の販売」と「商品の発送」を1つの履行義務とみなすか別々の履行義務とみなすか、また、別々の履行義務とみなすのであれば、その履行義務は本人としての履行義務なのか、代理人としての履行義務なのか、こういった判断をしなければなりません。

      ※履行義務とは、売り手が買い手に対して行わなければならない義務だと考えて下さい。

      この判断は非常に難しく、簿記3級と簿記2級でそのまま出題することは現実的に不可能です。そのため、便宜上、次の2つの仮定を置くこととなっています。

      ・履行義務は1つとみなす
      ・売手が支払う手数料(送料など)は(買手が負担する場合であっても)売手の費用とする

      この2つの仮定をおくため、簿記3級と簿記2級ではあきさんが持っている問題集の解答が正解になります。

      • 英真(エマ) より:

        初めまして。初歩的な質問で申し訳ないのですが、「発送諸掛」という言葉は初め聞きました。ネットで調べても出て来なくて困っております。諸掛は仕入諸掛と売上諸掛の2種類ではないのでしょうか?教えて頂けましたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

        • 平野 より:

          コメントありがとうございます。この点は細かいところですので気にする必要はありません。「売上諸掛」と「発送諸掛」は同じものとして読んでもらえれば大丈夫です。

          ただ、これだけでは何ですので、詳しく説明します。

          大きくは「仕入諸掛」と「売上諸掛(販売諸掛)」の2つで合っています。そもそも「諸掛」という言葉は「商品を移動させるのにかかる費用」という意味です。「仕入諸掛(仕入による商品の移動でかかる費用)」「売上諸掛(売上による商品の移動でかかる費用)」となります。

          発送諸掛は「発送による商品の移動でかかる費用」となり、ほとんど売上諸掛と同じです。

          ただ、商品の移動には積送というものがあります。積送とは「メーカーから小売店への商品の移動」で、「メーカーから小売店への商品の移動でかかる費用」を積送諸掛と言います。積送は商品の売上ではありませんので、売上諸掛に含めるのは理論上は微妙です(実務上は入れることも多いです)。

          こういった事情から、積送諸掛を売上諸掛に含める場合には「発送諸掛」ということがあります。

          諸掛に限った話ではありませんが、その言葉が意味する内容は文脈によって変わってきます(文脈によっては、発送諸掛を積送に関するものに限定して使うことで売上諸掛とは別ものとすることもありえます)。この記事であれば積送の話は全くしておりませんので、「発送諸掛=売上諸掛」という意味だと解釈すれば大丈夫です。

          回答は以上です。参考にされてください。

          • 英真(エマ) より:

            お忙しい中丁寧に分かりやすく教えて下さって、本当にありがとうございます。知識ゼロから独学で簿記3級と2級取得を目指しており、平野先生のサイトには日々すごく助けて頂いております。引き続き頑張ります!

            • 平野 より:

              コメントありがとうございます。お役に立てて何よりです。簿記の勉強、応援しています。

  5. タケ より:

    平野様
    はじめましてタケと申します。
    送料に関してわからない点が1点あるのですが、ご教示いただけないでしょうか。

    弊社の商品を取引相手に10,000円で販売し、商品の送料に500円かかりました。
    送料は相手負担ですので、10,500円の請求を行います。

    発送に関しては、物流センターより取引先に発送し、後日、弊社に物流センターより
    送料の請求書が届き支払を行います。

    発送時に支払があれば「立替金500/現金500」となるのはご説明で分かりましたが、
    送料の支払が後日の場合、計上方法が分かりません。

    お手数ですが、ご教示いただけないでしょうか。

    • 平野 より:

      コメントありがとうございます。送料の支払いが後日の場合は「未払金」を使えば大丈夫です。

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