- 簿記1級をとろうと思ってるんだけど就職で有利になるのかな……
- 簿記1級があると逆に不利になることもあるって本当?
- 簿記1級を就職活動で活かす方法を教えて!
「簿記1級は就職に有利」「簿記1級はオーバースペックで逆に不利になる」など、いろいろな情報が流れています。
そういった状況もあり、簿記1級を就職のためにとるべきか分からない、すでに簿記1級を持っているけれどどうやって活かしたらいいのか分からないと悩んでいる方は非常に多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。簿記1級が就職活動にどのように影響するかも知っています。
この記事では就職活動のために簿記1級をとるべきか、また、簿記1級を持っている人がどのように就職活動で活かしていくかについて解説します。
この記事を読めばあなたの就職活動において簿記1級とどのように付き合って行くかが分かります。
結論を言うと、就職活動のために簿記1級を取るのはコスパが悪くおすすめしません。すでに持っている人は「履歴書にそっと書く」「簿記1級について質問されたら答える」くらいにしておくと印象がいいです。
日商簿記1級は就職活動に有利だが、就職活動のために日商簿記1級をとるのはコスパが悪い

日商簿記1級をとるのにかかる時間:平日2時間の勉強で約1年
簿記1級は簿記2級と比べて難易度が急激に上がります。分量も大幅に増え、合格率も約10%前後です。
簿記1級の合格率については「日商簿記1級の合格率に隠された2つの真実から分かる合格への道」で詳しく解説しています。
一発合格した場合でも537時間かかります。537時間という時間は平日2時間の勉強をしたとして約1年かかる時間です。
簿記1級にかかる勉強時間を537時間としている根拠については「【社会人向け】簿記1級の合格に必要な勉強時間の目安」で詳しく解説しています。
社会人向けと書いていますが、大学生でも同じです。
- 簿記3級の合格に約3ヶ月、簿記2級の合格に約5ヶ月、簿記1級の合格に約1年かかる
- 選考が行われる大学4年生の6月までに合格しておくためには大学3年生の11月の試験に合格しておく必要がある(簿記1級は6月と11月の年2回)
この2点から、就職活動の選考に間に合わせるためには簿記の勉強を遅くとも大学2年生の4月に始める必要があります。
就職活動のために簿記1級をとるのはかなりハードスケジュールになります。
簿記3級の勉強時間については「【社会人向け】簿記3級合格の勉強時間の目安【1ヶ月は?】」で詳しく解説しています。
簿記2級の勉強時間については「【簿記2級の勉強時間】社会人向けスケジュールを解説【1ヶ月は?】」で詳しく解説しています。
日商簿記1級をとることで得られる評価:内定の決め手になるほどではない
簿記1級をとるのがハードでも、それに見合うだけ評価されるのであればがんばって合格する価値もあります。しかし次の理由から、実際にはそれほど評価されません。
- 簿記2級までとっておけば、就職後に勉強しても十分に間に合う
- 簿記1級であっても、実務経験がなければ仕事はできない
もちろん、簿記1級は簡単に取れる資格ではないので「やる気」や「真面目さ」は評価されます。しかし、「やる気」や「真面目さ」のために取るには簿記1級はハードすぎます。
就職活動のために簿記1級を取得するのはかなりコスパが悪いです。
日商簿記1級を就職活動に役立てるための3つのポイント

簿記1級をすでに持っている人、コスパが悪くても簿記1級を取りたい人は上手に役立てましょう。簿記1級を就職活動に役立てるためのポイントは次の3つです。
- 就職先は「大企業」または「会計事務所」にすること
- 資格を過度にアピールしないこと
- 大切なのはコミュニケーションだと心得ること
就職先は「大企業」または「会計事務所」にすること
簿記1級の能力を必要とする主な業務は「合併」「買収」「事業分離」です。この業務を行うのは大企業に限られています。
将来、税理士を目指すのであれば会計事務所への就職は有力です。簿記1級を保有している状態で会計事務所に就職し、働きながら税理士試験の勉強をするという計画は非常に合理的だと言えます。
逆に、税理士を目指していないのであれば会計事務所への就職はおすすめしません。理由は次の3つです。
- 教育に熱心ではない(上司や先輩もクライアントを抱えているので、繁忙期には教育どころではない)
- 繁忙期には残業が当たり前で、肉体的にかなりきつい
- 税理士資格がない人は「補助者」という位置づけなので給料が安い
会計事務所で働くのであれば「税理士になる前の勉強をお金をもらいながらさせてもらっている」と考えるくらいでちょうどいいです。
資格を過度にアピールしないこと
たとえ簿記1級を持っていても、実務を経験したことがない新卒者が即戦力になることはありえません。社会人はみな知っています。みんな仕事で経験を積みながら一人前になっていくのです。
新卒者は「大学在学中に起業した事業を売却して就職した」というような異色の経歴でもない限り、100%「成長(伸びしろ)」を期待して採用されています。
現在の能力で戦力になるとは期待されていません。
「資格を持っているから自分は一人前です」という姿勢は成長の阻害要因なので採用に不利になることは十分考えられます。
簿記1級については「履歴書にそっと書く」「聞かれたら答える」くらいにしておくと印象がいいです。
大切なのはコミュニケーションだと心得ること
経理の仕事は一人で黙々と記帳しているイメージがあるかもしれません。しかし、現在は変わってきています。
記帳などの業務はアウトソース(外注)が進んでいるし、派遣社員が担当している企業も増えています。
安く外注できる仕事を正社員に期待する企業はありません。簿記1級を持っている新卒者には次のようなキャリアを期待しています。
- 20代:現場で経験を積み、現場を経理の視点からよくする
- 30代:管理会計で得られた情報を現場にフィードバックして効率化する。
- 40代:「合併」「買収」「事業分離」など専門的な会計の仕事を担当してもらう
- 50代:経理・財務の面からの会社経営のサポートをしてもらう(CFO:最高財務責任者)
この全てに必要なのはコミュニケーションです。
現場をよくするためには、現場とコミュニケーションを円滑にとって、現場が何に困っているのか知る必要があります。
管理会計で得られた情報を現場にうまく伝え、現場の反発を招くことなく改善するためにもコミュニケーション能力が必要です。
「合併」「買収」「事業分離」のどれも当事者の立場を考慮してうまく意見をまとめる必要があります。
会社経営のサポートをするためには会計の専門家ではない社長に企業の状態をわかりやすく伝える必要があります。
これからの経理はコミュニケーションがうまくないと仕事になりません。少なくとも正社員として出世することはできないと考えた方がいいです。
もしこのような仕事をしていくことに抵抗があるなら、簿記1級を活かそうとしない方がいいかもしれません。
経理と無関係な部門での活躍を期待して簿記1級保持者を採用することはないので、簿記1級を活かそうとしたら経理関係の仕事にほぼ確実に配属されます。
日商簿記1級が就職に不利になる場合もある

簿記1級は難易度も高く、価値もある資格です。通常であれば簿記1級を持っていることが不利になることはありません。ないよりはある方がいいに決まっています。
しかし、次の3つのどれかに当てはまる場合は不利になる可能性があります。
経理のみを希望する場合
これからの経理の仕事は現場とのコミュニケーションが期待されます。場合によっては現場に異動して経験を積ませるような人事が出るかもしれません。
このことに拒否反応がある場合、簿記1級の強みが活かせません。正社員としての経理のキャリアを積むことができないからです。
それなら簿記1級を持っていない人を採用しようと考えても不思議ではありません。
コミュニケーションに問題があると判断された場合
これからの経理に必要なのは会計の専門知識だけではありません。コミュニケーション能力も間違いなく必要になります。
もちろん入社後にトレーニングして行くので、新卒の時点で高い能力がある必要はありません。しかし、あまりにも問題があると敬遠される可能性は十分にあります。
中小企業では不利になる場合もある
中小企業では簿記1級の知識はほとんど必要ありません。もちろん必要ないだけで、邪魔になることはないので本来なら不利にはならないはずです。
ところが、上司にあたる人が簿記1級を持っていなくて、かつ、器量に乏しい場合、自分の立場を心配して不採用となる可能性があります。
そのような会社に就職してもいいことはありませんので、この不採用は悪いことではありません。簿記1級を持っていたことでブラック企業を避けることができたと前向きに考えましょう。
【まとめ】新卒未経験者の日商簿記1級は就職に有利だがコスパは悪い

簿記1級を持っていると就職に有利ですが、簿記1級を就職のためだけに取るのはコスパが悪いです。
就職を希望する会社が大企業または会計事務所である場合には簿記1級の資格も生きてきますが、そうでない場合はおすすめできません。
簿記1級を就職で活用するためには簿記1級に合格していることを過度にアピールしないこと、コミュニケーションにも全く問題がないことを伝えることが大切です。
- 就職活動のために簿記1級はコスパが悪いとお伝えしました。しかし、簿記3級や簿記2級はおすすめできます。大学生が簿記をどのように勉強するといいのかについては「【簿記】大学生が就職活動を有利に進めるための簿記取得戦略」で詳しく解説しています。
- 高校生が簿記をどのように勉強するといいのかについては「【高校生向け】就職・進学のための簿記取得戦略」で詳しく解説しています。
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