- 工業簿記を勉強していると総合原価計算のところで仕損が出てきたんだけど……
- 総合原価計算の仕損と個別原価計算の仕損の会計処理の違いが分からない
- 総合原価計算の仕損と減損について教えて!
個別原価計算における仕損と総合原価計算における仕損の会計処理の違いがわかりづらく、混乱してしまう方が非常に多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん総合原価計算の仕損と減損についても熟知しています。
この記事では総合原価計算の仕損と減損について解説します。
この記事を読めば総合原価計算の仕損と減損についてより深く理解できるので、総合原価計算の仕損と減損に関する問題が簿記2級で出題されても自信を持って解答することができます。
結論を一言で言うと、総合原価計算の場合は仕損の加工進捗度と月末仕掛品の加工進捗度の関係で会計処理が異なります。
仕損の加工進捗度が月末仕掛品の加工進捗度よりも後の場合の仕損費は完成品にのみ負担、仕損の加工進捗度が月末仕掛品の加工進捗度よりも前の場合の仕損費は両者負担になります。
【総合原価計算】仕損と減損
仕損:製品の製造中に発生した不合格品
製品の製造中になんらかの原因で加工に失敗することがあります。失敗してしまうと、製品としては不合格となってしまうので、通常の製品と同じに売ることはできません。
このような不合格品の発生を仕損といいます。また、仕損の発生による損失のことを仕損費といいます。
個別原価計算でも仕損が出てきましたが、仕損そのものの意味は個別原価計算での仕損と同じです。違うのは会計処理方法になります。
減損:製品の製造中に発生した材料などの減少
製品を製造するときに材料などを投入しますが、製品を加工するときに材料が蒸発したり流れていったりすることで減ってしまうことがあります。
このように材料が減ってしまうことを減損といいます。また、減損の発生による損失のことを減損費といいます。
仕損は形と価値がある、減損には形と価値がない
仕損は、通常の製品と同じには売ることができないとはいえ、形がきちんとあります。そのため、材料として再利用したり、手直しをして規格外品として通常より安く売ったりすることもできます。
対して減損は形がありません。そのため、材料として再利用することも手直しをして規格外品として通常より安く売ることもできません。
総合原価計算における仕損と減損の会計処理
仕損や減損が発生した場合、原価計算上どのように処理するのかは、仕損や減損が正常なものか異常なものかによります。
正常仕損費・正常減損費は完成品や月末仕掛品に負担させる
製造を行うと必ずといっていいほど発生し、避けることができない仕損や減損のことを正常仕損・正常減損といいます。
正常仕損・正常減損は通常発生する費用なので原価に算入します。よって、正常仕損や正常減損は完成品や月末仕掛品に負担させることになります。
異常仕損費・異常減損費は非原価項目
通常発生する程度を超えて大量に発生する仕損や減損を異常仕損・異常減損といいます。
異常仕損・異常減損の仕損や減損は異常なものなので原価には算入しません。異常仕損や異常減損は非原価項目として処理します。
仕損と減損の会計処理は本質的に同じ
仕損品に利用価値がある場合のみ計算が若干異なりますが、それ以外は仕損も減損も、原価計算における処理方法は同じです。
本質的には仕損も減損も同じなので、同じように考えて構いません。
正常仕損費・正常減損費の会計処理
正常仕損費・正常減損費は、完成品と月末仕掛品に負担させます。ただし、いつも完成品と月末仕掛品の両方に負担させるわけではありません。完成品にのみに負担させることもあります。
つまり次の2つの処理方法があるということになります。
- 完成品にのみ負担させる場合
- 完成品と月末仕掛品の両方に負担させる場合
完成品にのみ負担させる場合
正常仕損・正常減損が月末仕掛品の加工進捗度よりも後の時点で発生した場合には、正常仕損費・正常減損費は月末仕掛品には負担させず、完成品にのみ負担させて計算します。
図で示すと次のようになります。
「月末仕掛品の加工進捗度<仕損・減損の発生点」…完成品のみ負担
月末仕掛品の進捗度よりも仕損・減損の発生点が後だということは、月末仕掛品の完成度の時点では仕損・減損は発生していないということになります。
具体的に考えてみるとよく分かります。月末仕掛品の加工進捗度が40%で、仕損・減損の発生点が70%だとしましょう。
月末仕掛品の時点ではまだ仕損・減損は発生していません。月末仕掛品の加工がさらにあと30%進み、完成までの途中、70%まで加工が進んだ時点で仕損・減損が発生するからです。
ということは仕損費・減損費は完成品のみに負担させるのが合理的です。
完成品と月末仕掛品の両者負担させる場合
正常減損・正常仕損が月末仕掛品の加工進捗度よりも前または同じ時点で発生した場合には、正常仕損費・正常減損費は完成品と月末仕掛品の両方に負担させて計算します。
図で示すと次のようになります。
「仕損・減損の発生点≦月末仕掛品の加工進捗度」…完成品と月末仕掛品の両者負担
仕損・減損の発生点よりも月末仕掛品の進捗度が後だということは、月末仕掛品は仕損・減損が発生したあとの仕掛品だということになります。
具体的に考えてみるとよく分かります。仕損・減損の発生点が40%で、月末仕掛品の加工進捗度が70%だとしましょう。
月末仕掛品は仕損・減損が発生したあと、さらに30%の加工を行った仕掛品だということになります。
ということは、仕損費・減損費は月末仕掛品にも負担させるのが合理的です。
このように月末仕掛品の加工進捗度と仕損・減損の発生点との関係で2つの処理方法を使い分けることになります。
通常発生する仕損や減損とは
正常仕損や正常減損とは通常発生する仕損や減損です。しかし、通常発生する仕損や減損とは何でしょうか。
仕損や減損というのは一言で言ってしまえば「無駄」です。どちらも費用がかかってしまうことに変わりはありません。
無駄をなくせば原価はなくした無駄の分だけ低くなるのだから、企業としては仕損や減損を0にしようとするはずです。
全ての仕損や減損を無駄なものとしてなくそうとするのであれば、通常発生する仕損や減損などはそもそもありえないといえます。
しかし、正常な仕損や減損は現実に存在します。では、「正常」とはどういうことなのでしょうか。
仕損や減損には、大してお金や労力をかけずになくせるものと、なくそうとすると膨大なお金や労力がかかるものがあります。
例えば、料理を作る工場があった場合を考えてみましょう。材料がマヨネーズだとします。マヨネーズは残り少なくなると出が悪くなります。
普通に握って出し切ったと思っても、まだ中にはマヨネーズが残っています。残っているマヨネーズを捨ててしまえば、残っている分が減損となります。
この減損を減らそうと思えば、マヨネーズの容器をはさみなどで切り、スプーンですくって使います。これで減損をかなり減らせます。
ここまでは大してお金も労力もかからないので、実際に行っている工場も多いでしょう。
しかし、まだ減損は0ではありません。ほんのわずかですが、容器の中にマヨネーズが残っているはずです。
この減損をなくすには「専用の器具を買う」「マヨネーズを無駄なくすくいだす熟練工を雇う」などといった対策が必要になるでしょう。
専用の器具を買ったり熟練工を雇ったりするにはそれなりのお金がかかります。熟練工を雇うのにかかったお金に対して得られるものはごくわずかのマヨネーズです。
それならマヨネーズを捨ててしまった方がはるかに合理的だということになります。
このように、仕損や減損をなくすためにかかる費用が仕損や減損をなくすことで得られる利益よりも大きい場合は仕損や減損をそのままにしておくことが企業としては適切な決定ということになります。
仕損や減損をなくすためにかかる費用が仕損や減損をなくすことで得られる利益よりも大きい仕損や減損が正常仕損・正常減損となります。
逆に、仕損や減損をなくすことで得られる利益が仕損や減損をなくすためにかかる費用より大きい場合は、その仕損や減損はなくす努力をすでにしているはずです。
仕損や減損をなくすことで得られる利益が仕損や減損をなくすためにかかる費用より大きい仕損や減損は理論上発生しません。
しかし、ミスによる発生や天災による発生はありえます。ミスや天災による仕損や減損は異常なものとして、異常仕損や異常減損として処理することになります。
これが正常仕損・正常減損と異常仕損・異常減損の違いになります。
【まとめ】総合原価計算における仕損と減損
製品の製造中に発生した不合格品を仕損、製品の製造中に発生した材料などの減少を減損といいます。
正常仕損費・正常減損費は完成品や月末仕掛品に負担させます。異常仕損費・異常減損費は非原価項目として処理します。
正常仕損・正常減損が月末仕掛品の加工進捗度よりも後の時点で発生した場合は、完成品にのみ負担させます。
正常減損・正常仕損が月末仕掛品の加工進捗度よりも前または同じ時点で発生した場合は、完成品と月末仕掛品に両者負担させます。
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