- 簿記を勉強しているとどうしても転記ミスをしてしまう……
- 試算表で借方と貸方が一致しているのに転記ミスしていることがあるのはなぜだろう
- 試算表で転記ミスがどのくらい発見できるのか教えて!
転記ミスをしてしまっても試算表の貸借が一致しないことでミスに気づけると考えている人が非常に多いです。
私は簿記通信講座を2012年から運営してきて数百名の合格者をこれまでに送り出させていただきました。もちろん試算表がどれだけ転記ミスの発見に役立つのかについても熟知しています。
この記事では試算表の転記ミス発見能力と、もし貸借が一致しなかったときのミスした場所の特定方法について解説します。
この記事を読めば試算表の貸借が一致していたとしてもミスがないとは限らない理由と、貸借が一致しなかったときにすべきことが分かります。
試算表の借方と貸方が同じになる理由
試算表は総勘定元帳の記録が正しいかどうかを確かめるために作成される表です。
簿記では「取引→仕訳帳→総勘定元帳」という流れで記帳・転記しますが、この転記が正しく行われているかどうか確かめるのが試算表です。
試算表の借方合計と貸方合計は常に同じになります。理由は次のとおりです。
- 仕訳の借方と貸方の金額は必ず同じになる
- 借方と貸方が同じである仕訳が転記されるので、総勘定元帳の各勘定の借方の合計と貸方の合計は必ず同じになる
- 総勘定元帳の借方合計と貸方合計を集計した合計試算表の借方合計と貸方合計も同じになる
- 合計試算表から各勘定の借方と貸方を相殺した残高試算表の借方合計と貸方合計も同じになる
1~4のどこにもミスがなければ試算表の貸借は必ず同じになります。逆に言えば「一致しなければどこかに誤りがある」ということでもあります。
試算表の貸借が一致しない場合の4つの原因
先ほどの1~4がミスなく行われていれば貸借が一致します。ということは、もし貸借が一致しなければ1~4のどこかに誤りがあるということになります。誤りの原因としては次の4つが考えられます。
- 仕訳の借方と貸方が同じ金額になっていない(1に誤りがある)
- 仕訳から総勘定元帳への転記ミスをしてしまった(2に誤りがある)
- 合計試算表への集計時に転記ミスをしてしまった(3に誤りがある)
- 合計試算表から残高試算表への差額計算時に計算ミスをしてしまった(4に誤りがある)
ミス発見の難易度:「仕訳→総勘定元帳」でのミス発見は難しい
1~4のミスのうち、3や4のミスは金額を突き合わせればすぐに気づくことができます。気づくのに大変なのは2の「仕訳→総勘定元帳の転記ミス」です。
2の「仕訳→総勘定元帳の転記ミス」は転記を一つ一つ見直さなければならないので、非常に手間がかかります。
比較的すぐにミスを見つける方法として、「不一致の差額を計算し、この金額にあてはまる転記漏れを調べる」という方法があります。
しかし、不一致の差額を探すという方法は誤りが2箇所以上ある場合には発見できないので完全とはいえません。やはり2の「仕訳→総勘定元帳の転記ミス」の発見は難しいです。
また、1のミスは通常はほとんどありません。貸借が一致しない仕訳を切るというのは、よほどの初心者でない限り行わないからです。
試算表の転記ミス発見能力はそれほど高くはない
試算表の貸借合計が一致しなかった場合、先ほど確認した1~4のどこかにミスがあるということが分かります。
ですが1~4以外のミス、例えば次のようなミスは1~4のどれにもあてはまらないミスのため試算表では発見できないミスになります。
- 仕訳自体が借方と貸方の金額が同じという関係を維持したまま間違っていた場合
- 転記先を間違えた場合
- 同じ仕訳の二重転記
このように、試算表のミス発見能力はそれほど強くはありません。なので「貸借合計が一致したからミスはない」と過信しないことが大切です。
簿記検定で貸借一致の確認は時間があれば行う
簿記検定では借方合計の欄と貸方合計の欄に点数が割り当てられることはほとんどありません。
借方合計と貸方合計を計算するのにも時間はかかるので、 時間的に余裕がない場合は借方合計と貸方合計を記入する必要はありません。
貸借一致を確認するメリット:貸借が一致しないミスに気づける
貸借一致を確認するメリットは「貸借が一致しなくなるようなミスに気づくことができること」です。貸借が一致しなくなるようなミスは次のようなミスです。
- 1つの仕訳の中で借方と貸方が一致していない
- 借方か貸方のどちらかに書き忘れた
- 借方に書くべきことを貸方に書いてしまった(逆も)
- 借方 に50,000、貸方に5,000というように0の数を間違えた
ミスに気づくことができれば、そのミスを修正することで得点を上乗せすることができるので、「転記ミスに気づくことができる」という点は紛れもなくメリットです。
貸借一致を確認する4つのデメリット
貸借一致を確認するデメリットには次のようなものがあります。
- 借方合計の欄や貸方合計の欄には配点がないので点数的に意味がない
- 電卓のスピードにもよるが、それなりに時間を使う
- 全てのミスを発見できるわけではない
- 貸借が不一致だったとしてもどこにミスがあるのかを見つけるのにはかなりの時間がかかる
借方合計の欄や貸方合計の欄には配点がないので点数的に意味がない
借方合計の欄や貸方合計の欄には通常は配点がありません。借方合計欄や貸方合計欄に記入してもそれだけでは1点も点数が増えません。
電卓のスピードにもよるが、それなりに時間を使う
電卓のスピードは個人差も多く、また問題にもよりますが、貸借一致の確認にかかる時間は早い人でも1分、5分から10分かかる人もいます。
時間のロスは痛いので、まだ解くべき問題が残っている段階で貸借一致の確認を行うのは少々危険です。
全てのミスを発見できるわけではない
金額そのものを間違えてしまっていた場合には借方と貸方が同じ金額ずつ変わるので、貸借一致の確認をしたとしてもミスには気づけません。貸借は一致しているのに不正解ということになります。
貸借が不一致だったとしてもどこにミスがあるのかを見つけるにはかなりの時間がかかる
貸借が不一致だったとしてもどこにミスがあるのかを見つけるのにはかなりの時間がかかることもあります。
ミスが1ヶ所であれば短時間で見つける方法もありますが、2ヶ所以上のミスだった場合は全ての仕訳をチェックしなおす必要があります。場合によっては10分以上の時間がかかることもあります。
総合的に考えると、貸借一致の確認は次のような要領で行うべきだと言えます。
- まだ解くべき問題が残っている段階では貸借一致の確認はやらない
- 全ての問題を解き終わり、なおかつ時間が多く余っていて他に見直すべきところがなければ貸借一致の確認を行う意味がある
きちんと実力があれば簿記3級や簿記2級ではかなりの時間が余るので貸借一致の確認をやるべきだといえます。
しかし、簿記1級の場合はかなりの実力者でも時間が大幅に余ることはまずないので貸借一致を確認する機会はほとんどありません。
【まとめ】試算表の転記ミス発見能力はそれほど高くはない
ミスが次の4つのどれかならば試算表の貸借の不一致でミスに気づくことができます。
- 仕訳の借方と貸方が同じ金額になっていない
- 仕訳から総勘定元帳への転記ミスをしてしまった
- 合計試算表への集計時に転記ミスをしてしまった
- 合計試算表から残高試算表への差額計算時に計算ミスをしてしまった
しかし、1~4以外のミス、例えば次のようなミスは1~4のどれにもあてはまらないミスのため試算表では発見できないミスになります。
- 仕訳自体が借方と貸方の金額が同じという関係を維持したまま間違っていた場合
- 転記先を間違えた場合
- 同じ仕訳の二重転記
このように、試算表のミス発見能力はそれほど強くはありません。なので「貸借合計が一致したからミスはない」と過信しないことが大切です。
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