日商簿記1級を転職に役立たせるために

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日商簿記1級は難易度が高く、簿記検定の中では最高峰に位置している試験です。しかし、合格の難しさと比較して、転職にはあまり役立たないという話も聞こえてきます。

そのような話を聞くと、転職のために日商簿記1級の合格を目指している方は不安を感じているのではないでしょうか。本日は日商簿記1級が転職の役に立つのか、役立たせるためにはどうすればいいのかについてお伝えします

≫この記事では「転職」についてお伝えしています。新卒の方など「就職」については経理に就職するときに身につけておきたい4つのスキルもあわせてご覧ください

経理への転職で最も重視されるのは「実務経験」

世間でもよく言われていることですが、経理への転職で最も重視されるのは「実務経験」です。求人情報に「未経験歓迎」としている会社であっても、実務経験がある人から応募があればそちらを採用することがほとんどです。

これは経理への転職に限った話ではなく、中途採用での転職はどの業種であっても実務経験が最重要視されます。

では、なぜこれほど実務経験が重視されるのでしょうか。大きな理由は次の3つです。

  • 知識と実務はかけ離れているから
  • 実務を知らない人はすぐにやめてしまいやすいから
  • 中途採用では即戦力が求められることがほとんどだから

知識と実務はかけ離れているから

試験勉強で身につける簿記の知識は実務のほんの一部です。実務では試験勉強では使わなかった様々なことを使います。逆に試験勉強で身につけた内容であっても実務では全く使わないこともよくあります。

つまり、簿記の勉強で身につけた内容と経理の実務はかけ離れているのです。経理の仕事は当然実務を行う場所であって、勉強を教える場所ではないので経理への転職では知識そのものは特に売りにはなりません。

なので、日商簿記1級の合格をアピールする場合にも、「知識の量と実務での実力は比例しない」という前提でアピールする必要があります。

実務を知らない人はすぐにやめてしまいやすいから

先ほどお伝えしたとおり、簿記の知識と経理の実務はかけ離れています。そのため、未経験の人を雇った場合、せっかく雇った人が「自分が思っていた仕事と違う」「自分には向いていない」といった理由でやめてしまうということが多いです。

企業側からすれば、すぐにやめられるとかなりの損害が発生します。教えていた時間も無駄になりますし、採用活動も再開しなければなりません。

なので、未経験の場合は「根気強いこと」「適応力があって何事も長続きすること」「ルーティンワークが苦にならないこと」などをアピールすることが大切です。

中途採用では即戦力が求められることがほとんどだから

大企業の場合は経理部のようなものがあり、そこでは多くの人が働いています。このような場合は実務が未熟な人を雇っても、徐々に教育しながら一人前にしていくこともできます。若い人の方が教育しやすいこともあり、若いと未経験でも採用されやすいといえます(この形の採用は新卒採用や第二新卒採用によく見られます。ちなみに、大企業が中途採用で実務経験者を求める場合ももちろんあります。そういう場合、大企業であるほど業務が細分化されているので、職務内容の具体性が求められます)。

大企業は日商簿記1級の知識を求めていることも多いので、こういった形での転職であれば「日商簿記2級を持っている実務経験者<日商簿記1級を持っている未経験者」といった状況がよく起こります。

しかし、中小企業では経理は一人、多くても二、三人の場合が多いです。このような場合、新人を教育する余裕がないので、実務がこなせる人を採用しないと経理ができません。結果、経理未経験者は敬遠されることになります。

中小企業では日商簿記2級で十分なこともあり、よく世間で言われている「日商簿記2級を持っている実務経験者>日商簿記1級を持っている未経験者」といった状況がよく起こります。

特に重視される実務経験には「日々行われる実務経験(一般的な採用の場合。消費税の税抜処理に長けていると強い)」「原価計算の経験(製造業の場合)」「決算業務・税務申告の経験(管理職の場合)」などがあります。一般に年齢が上がれば上がるほどより実務経験が重視されます

実務経験者が採用できない場合に重視されるのが簿記資格

これまでお伝えしたとおり、「大企業が新卒採用や第二新卒採用で採用する場合」を除いて実務経験が何より重視されます。なので、簿記資格が重視されるのは「実務経験者を採用できない場合」です。

このとき企業が選考基準として設定しているのは「日商簿記2級以上」が圧倒的に多いのですが、これは世の中の企業の中で「中小企業」が圧倒的に多いからです(中小企業は全企業の99.7%を占めています。)。

中小企業で経理を行うのであれば日商簿記2級で十分なのです。ただ、この場合に日商簿記2級は「持っていれば十分」という意味ではなく「持っていることが必要」という意味なので、日商簿記2級があれば転職が簡単だと言うわけではありません。

さて、日商簿記1級を選考基準として設定している企業は「大企業」です。大企業で非常に重要なのが「連結会計」なので、連結に対する知識は必須です(連結会計ができないのであれば、日商簿記1級を持っていてもほとんど価値がないと言えます。)。

この場合でも「連結に対する知識がある実務経験者」が圧倒的に有利なのですが、こういった人が求職中であることはあまりないので、そういった場合には日商簿記1級や公認会計士試験合格者などの連結会計に知識がある方が採用される傾向にあります。

ちなみに、実務経験がない場合は採用された当初の給与は少ない傾向にありますので、高望みは禁物です。

「企業はなぜ人を雇うのか」を意識する

そもそも、企業はなぜ人を雇うのでしょうか。ここをしっかりと理解しておかないと、転職そのものがうまくいかなくなってしまいます。

会社が人を雇うのは「その人を雇うことでかかる人件費以上の収益を得るため」です。人件費以上の収益が得られないのであれば雇うことはありません。そこから、次の鉄則が導かれます。

  • 相手に利益をどう与えられるのか
  • 相手が必要としているものに自分はどう応えられるのか

このこととこれまでお伝えしたことを踏まえると転職時のアピールの仕方も自然と決まってきます。

実務経験を根拠に、会社の利益にどう貢献できるのかを具体的に分かりやすく伝えることで相手にどういった利益を与えられるのかを伝えるのです。

年齢・状況別の日商簿記1級の役立て方

これまでお伝えしたことを踏まえて、転職と日商簿記1級との関わり方について年齢・状況別にお伝えします。ちなみに、今回は「転職」がテーマなので、新卒については特に触れません(新卒は、基本的には「第二新卒採用」と同じです。)。

年齢については便宜上、次のような形で分類します。

  • 第二新卒(20代半ばまで)
  • 中途採用(20代後半)
  • 中途採用(30台前半)
  • 中途採用(30台後半から)

以下年齢別にお伝えします。

第二新卒(20代半ばまで)

実務経験がない場合

第二新卒の場合、実務経験がないのであれば大企業の第二新卒での採用を狙っていくのがお勧めです。大企業の第二新卒枠では日商簿記1級の資格は高く評価されるので、しっかりと日商簿記1級を取得してアピールしていくといいと思います(最低でも日商簿記2級はほしいところです。)。

その場合、「『知識の量と実務での実力は比例しない』という前提でアピールすること」「ルーティンワークが嫌いではなく根気強いこと」「会社にどういった利益を与えられるのかを伝えること」「(日商簿記1級に合格しているのであれば)連結会計が得意であること」などをアピールすることがポイントです。

実務経験がある場合

実務経験があるのであれば、大企業の第二新卒枠に加えて中小企業への採用を狙えます。中小企業は日商簿記2級でも十分なところが多いので、日商簿記1級の取得よりも実務経験をアピールする方がお勧めです。

その場合、「会社にどういった利益を与えられるのかを、実務経験を根拠に具体的に分かりやすく伝えること」がポイントです。

中途採用(20代後半)

実務経験がない場合

この年齢であれば、実務経験がなくてもまだ経理に転職できる可能性があると言えます。その場合、最低でも日商簿記2級を取得し、「未経験歓迎」の求人を根気よく受けていくことが大切です。

また、大企業に採用される可能性もなくはないので、そういったところを受けたいのであれば、日商簿記1級が最低限必要になってきます。

こういった場合、「『知識の量と実務での実力は比例しない』という前提でアピールすること」「ルーティンワークが嫌いではなく根気強いこと」「会社にどういった利益を与えられるのかを伝えること」「(大企業を受ける場合で、日商簿記1級に合格しているのであれば)連結会計が得意であること」などをアピールすることがポイントです。

実務経験がある場合

実務経験が数年あれば、中小企業に採用される可能性が高いです。この場合、日商簿記2級でも十分なところが多いので、日商簿記1級の取得よりも実務経験をアピールすることが大切です。

また、日商簿記1級の範囲での実務経験があるのであれば、大企業への中途採用も狙えます。この場合は日商簿記1級までしっかりと取得し、資格と実務の両面でのアピールが必要です。

その場合、「会社にどういった利益を与えられるのかを、実務経験を根拠に具体的に分かりやすく伝えること」「(大企業を受ける場合で、日商簿記1級に合格しているのであれば)連結会計が得意であること」がなどをアピールすることが大切です。

中途採用(30台前半)

実務経験がない場合

30代になってくると資格だけだと日商簿記1級でも厳しいです。なので資格は日商簿記2級までで構わないので、まずは実務経験を積むことを考えてください。正社員にこだわらず、「派遣社員」「契約社員」「アルバイト」などで構わないので実務経験を優先する必要があります。

その場合、「『知識の量と実務での実力は比例しない』という前提でアピールすること」「ルーティンワークが嫌いではなく根気強いこと」「会社にどういった利益を与えられるのかを伝えること」などをアピールすることがポイントです。

実務経験がある場合

実務経験が数年あれば、中小企業に採用される可能性が高いです。この場合、日商簿記2級でも十分なところが多いので、日商簿記1級の取得よりも実務経験をアピールする方がお勧めです。

その場合、「会社にどういった利益を与えられるのかを、実務経験を根拠に具体的に分かりやすく伝えること」がポイントになってきます。

また、圧倒的な実務経験(例えば連結会計の経験等)がある場合、日商簿記1級まで取得しておけばヘッドハンティングなどで転職できる可能性も高まります。

中途採用(30台後半から)

実務経験がない場合

この年齢で実務経験がないと非常に厳しいです。資格は日商簿記2級までで構わないので、まずは実務経験を積むことを考えてください。正社員にこだわらず、「派遣社員」「契約社員」「アルバイト」などで構わないので実務経験を優先する必要があります。

実務経験を積むための転職の場合であっても、「『知識の量と実務での実力は比例しない』という前提でアピールすること」「ルーティンワークが嫌いではなく根気強いこと」「会社にどういった利益を与えられるのかを伝えること」などをアピールすることが大切です。

しっかりと実務経験が積めればステップアップしていくことも可能になります。

実務経験がある場合

この年齢では実務経験といっても圧倒的なレベルの実務経験が要求されます。2~3年帳簿をつけていた程度では厳しいでしょう。

中小企業であれば、「自分が責任者の立場で決算を行ったことがある」「自分が責任者の立場で税務申告を行ったことがある」「資金繰りを任されていた」といった経験が、大企業であれば「連結会計を行ったことがある」といった経験があれば心強いです。また、このレベルの実務経験があるのであれば、日商簿記1級を取得して、資格と実務の両面からアピールしていくといいと思います。

その場合、「会社にどういった利益を与えられるのかを、実務経験を根拠に具体的に分かりやすく伝えること」がポイントになってきます。

このレベルの実務経験があれば、管理職的な立場での転職も可能になってきます。

まとめ

日商簿記1級の資格が最も活きるのが「第二新卒など、若い人が大企業への経理職での転職を考える場合」と「実務経験をしっかりと積んでいるご年配の方が実務経験につり合うだけの資格として日商簿記1級を取得し、管理職での転職を考える場合」です。こういったケースでは日商簿記1級の資格が非常に活きてきます。

また、企業が実務経験者を採用できない場合は、未経験であっても採用されるケースが出てきます。この場合も日商簿記検定が重要になってきます。

こういったケースでは「中小企業なら日商簿記2級」「大企業なら日商簿記1級」を持っておくといいと思います。ただ、30歳以上で未経験だと厳しいので、30歳以上の人は資格よりも実務経験を何とかして積むことを考えるべきです。

こういった形で日商簿記1級と関わっていくことが転職には効果的です。

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